ラヴェル「管弦楽曲集」 マゼール指揮 ニュー・フィルハーモニア管酒巻久の「キャノンの仕事術」を読む。
ビジネス書の多くは成功者の手で書かれている。
成功者が書いているから、ビジネス書の多くは、説教と自慢話で満ち溢れているといってもよい。そりゃ、成功したわけわけだから、自慢話のひとつやふたつしたくなるだろう。逆に、説教と自慢話がなかったら、多くのビジネス書は成り立たないというか、何を書いていいかわからないに違いない。
なので、私がときどきビジネス書を紐解くのは、成功者の自慢話を聞いてみようと思うからだ。
成功者は、もともと才能があるので、正直いうと実はあまり参考にならないことがほとんどなのだが、自分にも応用できそうな訓話が、たまにはあるので読むわけだ。
キャノン電子の社長である著者は実業界の成功者であるわけだから、この本も例外ではなく、説教と自慢のオンパレードであると言える。そういう意味でまったくオーソドックスなビジネス書だ。期待を裏切らない。
この本で印象的だった言葉はいくつかあるが、笑えたのがこれ。
『ビジネス書ならば、絶対に翻訳物がいい。欧米の著作は、作者の主張したい独自の視点が明確で、それを証明するためのデータをがっちり集めてくる』。
自分の本を暗に批判しているのか。というか、暗なのか…。
不思議な著者である。
マゼールのこのラヴェルは、70年代前半のもの。
「ボレロ」は比較的速めのテンポで進んでゆく。ソロがみんなうまい。オケのメンバー、気合が入っているようで聴き応えがある。ひとつひとつの楽器を順番に味わっていると、もうあっという間に終盤にさしかかっている。終結部ではグッとテンポを落として大見得を切るのはマゼール流。
「逝ける王女のためのパヴァーヌ」、ホルンがすばらしい。パリ音楽院のようなひなびた味わいではないが、柔らかくてコクがあり、ちょっとつや消しされた黄金色にしっとり輝いている。オーボエの厚く毅然とした音色もすばらしい。音そのものはがっしりしているけれど、なんだか悲しみの漂う音色なのである。
「道化師の朝の歌」は音響的な華やかさとはうらはらに、ちょっとアンニュイで気だるい雰囲気が心地よい。
ここではニュー・フィルハーモニアがとても透明な響きを醸し出していてステキだ。
「ラ・ヴァルス」は実に流れがいい。そして、音が独特。シンバルと大太鼓のあたかも羽毛のような感触を始めとして、合奏がじつにマイルドな音を聴かせる。夢のなかで聴いているような、ちょっと現実からかけ離れたような、ヴェールのかかった音なのである。
どうやらマゼールは、曲によって音色に変化を持たせているみたい。4つの曲を続けて聴くと、あたかもひとつの交響曲を思わせる、なんていうとちょっと穿っているけれど、それぞれ趣向が異なるコース料理のような彩りを楽しむことができる。
EMIの録音は万全。昨日聴いたワイセンベルクのブラームスとは大違い。いつも、こういう録音であってほしいもの。
1971年6月、ロンドンでの録音。
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