ティボーデのピアノで、ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」を聴く。
ここでは録音当時、アシュケナージが首席客演指揮者を務めていたクリーヴランド管弦楽団を指揮している。
アシュケナージは広範なレパートリーを持つピアニストでもあるから、こういうと彼に失礼かもしれないが、ある意味ラフマニノフのスペシャリストであると云っていいと思う。コンドラシン、オーマンディ、プレヴィン、ハイティンクなどといった指揮者たちをバックに、多くの録音を残している。それらはみないい演奏であるけれども、ピアニストの観点からすれば、いくつかの注文はあったのだろうと推察する。「もし俺が指揮をしたら、ここはもっと強くしたいなあ」とかなんとか。
そういった長年の不満(?)を発散するがごとく、この演奏はオーケストラが輝いている。
クリーヴランド管弦楽団がラフマニノフのコンチェルトを演奏するのを寡聞にして知らないが、細身で筋肉質のスタイルが曲にマッチしていて、フィラデルフィアやロンドンとはまた違う面白さがある。ことに、小太鼓の一音一音がはっきりと聴き取れるあたりはまだマゼールの伝統が残っているかのよう。第9,10変奏のシンバルもステキに光っている。件の18変奏は、さっぱりとした甘さの後味がいい。ジェーン・シーモアの麗しさを思いださずにいられない。22変奏からは一気呵成。ピアノとの音量のバランスをキッチリ取りながらも、音の洪水とも言うべき音響世界を繰り広げる。痒いところに手が届く。キビキビしていて気持ちがいい。
最後になったが、ティボーデのピアノも繊細でよい。とくに高音はピインと立っており凛々しい。小回りの利いた技が随所に聴こえる。いい演奏である。
1993年3月、クリーヴランド、セヴェランス・ホールでの録音。
海際。
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