藤原和博の「坂の上の坂」を読む。
著者は、東京大学を優秀な成績で卒業後、リクルートに入社し、トップ営業マンとして若くして部長になり、その後公立中学校の校長を勤めたり、橋下大阪府知事の顧問になるなど広範に活躍している。
常日頃からビジネス本の9割はつまらないと考えているが、本書もその9割に入る。ビジネス本を記すような人は基本的に成功者である場合が多いが、彼ら彼女らが成功したのはひとえに運である。
勉強ができるのも、努力を怠らないのも、人付き合いがいいのも運のうち。わかっちゃいるけどやらないのが凡人。私のような阿房者をいかに開眼させるかがビジネス本の役目だと勝手に思っている。その意味で本書はその要件を満たさない。
本の内容そのものにけっこう納得できる個所があるのは認めるが、新味はない。だから読み終わった途端に忘れる。覚えているのは、東大でも優秀な成績だったから日本銀行にも入れたのにあえて将来性のあるリクルートに入った、という自慢話だけ。
毒にも薬にもならないうえに、読み終わった後なにも残らないということにかけて藤原和博は、齋藤孝と双璧だろう。
パーヴォ・ヤルヴィの指揮で、ベートーヴェンの交響曲9番を聴く。
何年か前に聴いた彼の「英雄」がとてもよかったので、少しずつ聴いている。
この演奏はベーレンライター新原典版によるもの。具体的には、1楽章の301小節以降のティンパニの叩き方や、4楽章のチェロとコントラバスによるレチタティーヴォの鳴らせ方が違うらしい。どちらも云われなければわからない。従来の楽譜であっても、例えばフルトヴェングラーのやり方などは楽譜の細かな指定を超越した変化があるから、それと比べてしまうと、この演奏はオーソドックスな部類から漏れない。
演奏のスタイルは「英雄」と同じように、筋肉質で締まりがある。テンポはいまどき流行りの快速。提示部を反復しても全曲で63分強。
弦楽器はモダン楽器を使用してのノン・ヴィヴラート。このオーケストラは常設ではないらしいが、とてもよくまとまっており、個人の技能も高い。
ジャケット裏の写真を見ると、コントラバスは4台、ヴァイオリンは3プルト。このオケの通常の編成であろう。欲を言うならば、演奏全体にもっとふくらみが欲しいような気がする。贅肉を落としてスマートな反面、スケール感に乏しい。
大編成だったらすべてがいいというわけではない。室内オケでもブリュッヘンの名演がある。「英雄」では素晴らしかった彼らのアプローチが、ここではあまり成功しているようには感じられない。
独唱陣はゲルネを始め、みんないい。合唱は緻密。
どこか悪いところがあるわけではない。けれどもなにかしっくりこないのである。
クリスティーナ・エルツェ(ソプラノ)
ペトラ・ラング(アルト)
クラウス・フローリアン・フォークト(テノール)
マティアス・ゲルネ(バリトン)
ドイッチェ・カンマーコーア
ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン
2008年8,12月、ベルリン、フンクハウス・ケーペニックでの録音。
向こうは海。
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