リチャード・グードのピアノで、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ31番を再び聴きました(1986年8月、1988年7月、ニューヨーク、RCAスタジオでの録音)。
記録によれば、ベートーヴェンがこのソナタを完成したのは、1821年の12月25日。彼は、このソナタを誰にも献呈しませんでした。
ウィルヘルム・ケンプは、「このソナタで私たちは、もっとも個人的な告白に出会う。だからベートーヴェンがこの曲を誰にも献呈せずに手許に置きたく思っていたのは何ら不思議ではない」と言っています。
ベートーヴェンの心境をわかる術はありませんが、ケンプが言うなら、そうなのでしょう。
曲は3楽章からなりますが、第2楽章が短いのに対して終楽章がアダージョとフーガとに分かれていることから、4楽章制ともとれます。でもはっきりとした区切りは見当たらないので、全体を通してひとつの曲と考えてもよいように思います。
グードのピアノは、たっぷりとしたテンポでもって重心を低くして、表情を微妙に揺らせながらも、ひとつひとつの音を丁寧に紡ぎ上げたもの。流れのよさとかスピード感といったものは希薄だけれども、堅実な弾きぶりに誠実さを感じます。
パースのビッグムーン。
PR