エマーソン弦楽四重奏団の演奏で、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲13番と「大フーガ」を聴く(1994年4月、ニューヨーク、アメリカ文芸アカデミーでの録音)。
このCDは、6楽章の前に「大フーガ」が挿入されていて、あたかも7楽章制のように組み立てられている。
最近は、「大フーガ」は最後にカップリングされているか、別ディスクに収録されていることが多い印象。この並び順は、多く見積もっても、全体の半分には満たないのではないか。
さて、エマーソンの演奏は相変わらず切っ先が鋭い。響きのコクの深さも併せ持っている。
1楽章の、せかすようなヴァイオリンの音色は、鋭角的でありつつも、濃厚で肌理が細かく、腹にずっしりと響く。
2楽章は、恐ろしく速い。そして精緻。こんな演奏は聴いたことがないかも。
3楽章は、嘆息とあきらめ。淡々とした流れの中で、チェロの音色に落ち着きを感じる。
4楽章はとてもおだやかな音楽で、エマーソンもさすがにここはリラックスして弾いているかのよう。
5楽章は、カヴァティーナ。深々としておおらかな旋律が舞い降りるところは、15番の3楽章を想起させる。ベートーヴェン晩年の境地のひとつのあらわれと言ってもいいかもしれない。実に神妙。
「大フーガ」、これは桁外れの巨大なフーガ。抜き身の刀のよう。寄らば切られそう。でも、ふと滋味深いところもあったりする。
大曲なだけに解釈の幅は広いと思われるが、この演奏は、おそらく音楽のふり幅を最大級に広げたもの。聴いていて正直疲れる。こういう音楽なのだけれど。
6楽章は朗らか。演奏はメリハリをキッチリとつけていて、明快。
中間部のメロディーは、ふっきれたように明るい。ベートーヴェンの辞世。感涙。
フィリップ・セッツアー(ヴァイオリン1)
ユージン・ドラッカー(ヴァイオリン2)
ローレンス・ダットン(ヴィオラ)
デヴィッド・フィンケル(チェロ)
パースのビッグムーン。
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