ヘンデル「メサイア」 オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団さくら剛の「インドなんて二度と行くか!ボケ!!」。これは、ニートの若者のインド旅行記。インドに行ったら人生観が変わる、とよく聞くが、この著者も変わったと言っている。それは、ガンジス川にみられる死生観のギャップの衝撃、というようなものではなくて、客引きの強烈さのハングリー精神。
駅を降りた瞬間に群がる客引き。そのなかから料金交渉がまとまった人力車に乗るものの、着いたのはホテルではなく土産物店。あるいは、ボッタクリの旅行会社。文句を言っても、ああいえばこういうで埒が明かない。ブチ切れるといったんは素直に言うことを聞くが、喉元すぎるとまた逆戻り。土産物屋をいったりきたりで、日は暮れる…。
ひとり旅の気楽さと面倒くささ。断る力をつけたいなら、カツマーよりも本書を薦める。
面白すぎて、電車で読むのは危険。
オーマンディの「メサイア」、これはハイライト版。75分あまり収録されているので、だいたい全曲の半分はおさえていることになろうか。まあ、全曲に挑戦したところで半分は寝ているので、これくらいがちょうどいいかもしれない。ちなみに、全曲からなにが漏れているかというと、序曲、ソプラノのアリア(これは好きな曲なだけにちょっと残念)、それからテノールのアリア…あとは思い出せない(泣)。
この演奏は、モダン楽器を使ったスタイルのもの。極彩色のスケール大きな音楽が展開される。寺で言うと、日本のモノトーンのものではなく、タイやベトナムにあるような、派手でパワフルな仏像をイメージする。演奏で言えば、ビーチャムとかサージェントのスタイルと似ており、さらにそこにひと匙の金粉をまぶしたような豪奢さが加わっているような。ビーチャムのようなシンバルの一撃はないものの、ティンパニの強打はここぞという場面で炸裂しており、気持ちがいい。
合唱はけっこうな人数で歌っているようで、すごく広がりがある。ときには棒読みのように硬く、ときには情感を目いっぱいに込めて歌い上げていて、感情の起伏の幅が大きい。
歌手では、とくにバスのウォーフィールドがいい。筋肉質で野太い声が細やかにコントロールされていて、この曲の演奏でときどき発声する音程の怪しさはなく、安定している。ソプラノは第3部のアリアが秀逸。膝枕してもらいたくなるような、不思議な包容力がある。アルトは、カウンターテナーのように聴こえる。
オーケストラは、やはり合唱団と目指す方向が同じで(逆か)、空間的な広がりがスゴい。聴覚のすみずみにまで豊かな音が沁み渡る。有名なトランペットとバスの絡み合いは、この演奏としても白眉のひとつ。極上の金色の酒。
やっぱり全曲聴くべきかな。
アイリーン・ファレル(S)
マーサ・リプトン(A)
ウィリアム・ウォーフィールド(Bs)
モルモン・タバナクル合唱団
1958,59年、フィラデルフィアでの録音。
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このインド旅行記、いささかワカモノ言葉が過ぎますが(?)面白かったです。こうした読み物は、発展途上国を舞台にしたものがよいようです。ちょっと毛色は違いますが、村上春樹のギリシャ・イタリア紀行も面白かったです。ここでは食事のシーンにやられました。
そうそう、沢木耕太郎の『深夜特急』は読みました。旅に出たくなる本です。
なかでも一番印象に残っているのは、パキスタンの路線バスの巻です。昨日のインドでも少し出てきましたが、あのあたりの運転はそうとうに荒いようです。沢木さんが手に汗を握る様子がリアルに伝わってきます。