小林秀雄の対話集「直感を磨くもの」から、大岡昇平との対話「文学の四十年」を読む。
この対話は1965年に行われた。ここで言う40年とは、大岡と小林が初めて出会ったときからの歳月をさしている。
大岡は小林に比べてだいぶ年下であるにも拘らずタメ口で話している。出会った頃が学生だったからなのかもしれない。当時小林といえば文士の天敵(?)。それを相手に物おじせず自然に対話しているところが愉快。
全部で19ページは他の対話に比べて短いが、なかでは柳田國男に関するやり取りが面白い。
柳田は亡くなる直前に小林に録音機を持たせて呼んだ。日本人の道徳観について言い残したかったらしい。しかし話は横道へそれ、うまくいかなかった。それを大岡が引き取っている。
大岡「日本全国から民話を集めたのは動かせない功績だよ。だけれど、全国の後輩から吸いとって自分の説として発表したそうだ。死ぬときになって気になったというのは、それじゃないかな」。
小林「そうか」。
大岡「だと思うな。日本人が死にぎわになってちょっと言うということは、とかく私生活のことなんだがね」。
微笑ましい。
ラインスドルフ指揮ローマ歌劇場の演奏で、プッチーニの「トゥーランドット」を聴く。
聴きどころは言うまでもなく、ニルソンのタイトル・ロール。肉厚で風格たっぷりな佇まい、そして音速を超える戦闘機を思わせる破壊力。いざとなりゃ、フル・オーケストラのフォルテッシモのはるか上を、涼しげに飛んでいく。
彼女のための録音と言っても、さほど語弊はないかもしれない。でもこのオペラは、トゥーランドット姫は2幕以降からしか出てこないから、他のメンバーも重要。テバルディの艶のある歌は素晴らしい。押し出しの強くないところが、この役にぴったり。線の細さが生きている。ビョルリングは力強い。明快にしてまっすぐな声が冴えわたる。いかにも頑固で率直な男という雰囲気を醸し出している。懐かしのデ・パルマがいるピン・パン・ポンは軽快。
そして、ラインスドルフ。予想以上にいい。スコアにして何十段あるかわからないが、この大オーケストラに加えて合唱があるのに、副声部まですみずみ聴こえるくらいに見通しがいい。なのに、とても自然であり、作為を感じない。リズム感がいいからだろう。それにひと癖もふた癖もあるであろうソリストをまとめあげる技量。手だれの技を見せつけられた。
RCAのリヴィング・ステレオは素晴らしい。半世紀以上前のものとは思えないし、部分的には現在の最新録音も上回ると思う。
トゥーランドット:ビルギット・ニルソン
カラフ:ユッシ・ビョルリング
リュー:レナータ・テバルディ
ティムール:ジョルジョ・トッツィ
ピン:マリオ・セレーニ
パン:ピエロ・デ・パルマ
ポン:トマゾ・フラスカーティ
アルトゥム:アレッシオ・デ・パオリス
役人:レオナルド・モンレアーレ
ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団
1959年7月、ローマ歌劇場での録音。
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