ヴァント指揮ベルリン・フィルの演奏で、ブルックナーの交響曲5番を聴きました(1996年1月、ベルリン・フィルハーモニーでの録音)。
ヴァントは晩年に日本で大きな人気があったようです。けっこうな歳だったから、その人気は70年代後半のベームに似ていると感じたものです。
でも、ヴァントの演奏って、万人向けではなかったと思います。少なくとも僕は、彼のお堅い音楽のどこがいいのかよくわからなかった。80年代に北ドイツ放送響と演奏したブルックナーの8番はエアチェックを何度も聴いたけれど、同時期にN響を振ったマタチッチのものに比べるべくもなかった。
そんなことがあり、彼のCDを長らく買うことはなかったのだけど、このたび、ブルックナーの5番をむしょうに聴きたくなって購入しました。マゼールやティーレマン、ドホナーニ盤とともに。
ブラスが素晴らしい。太くてコクがあり、いぶし銀のような光沢がある。ベルリン・フィルの低弦は強いからあまり好みではないものの、ここでは金管やティンパニとよく調和しています。
この曲は畢竟、4楽章に尽きると思っているのだけど、2楽章も聴きもの。いでたちは荘重なのに足取りは軽やか。耳の快感。
4楽章はそれまでの楽章と同じく、堂々たるもの。それに加えて、弦楽器の寄せては返す波のようなうねりには濃厚な色気があり、木管はときにユーモラスな味わいを醸し出し、そしてほんの短いフレーズからも豊かな表情を伺えます。
ラスト近くの大きな盛り上がりは見事だけれども、それまでの延長なので、さほどの驚きはなかった。
このディスクの大きな価値は、本気になったベルリン・フィルを聴くことができることだと思います。
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