有川浩の「阪急電車」を読む。
これは、宝塚と西宮北口駅を結ぶ阪急今津線を舞台にした、さまざまな人びとの悲喜こもごもの話。
電車のなかでさまざまな小事件が起こる。図書館でみかけた女性との出会い、男を寝とられて結婚式に白いドレスで参列した女性、若い男女の痴話げんか、おばさん軍団のおぞましい振る舞い、漢字を読めない彼氏のことを楽しそうにしゃべる女子学生たち。
それらの小事件は異なる駅で発生するが、ほんのちょっとしたことがきっかけとなって、それぞれが交錯する。
女性の目線からみた電車の風景は、ときには嫌なことがありつつも、人情の温かさに事欠かない。
こんなに面白いことがあるのなら、通勤電車も悪くない。
マイヤーのクラリネットとカルミナ四重奏団の演奏で、ブラームスのクラリネット五重奏曲を聴く。
ブラームスは、晩年にクラリネットのための作品を4つ書いた。ふたつのソナタ、クラリネット三重奏曲、そしてクラリネット五重奏曲である。このとき、ブラームスはすでに本格的な作曲活動からの引退を表明していたが、「楽団のナイチンゲール」と言われたマイニンゲン宮廷管弦楽団の首席クラリネット奏者である、リヒャルト・ミュールフェルトに触発されて、これらの作品を書いたと言われている。
どれも渋い作品だが、完成度の高さにおいては、五重奏曲に軍配があがるのじゃないだろうか。
マイヤーのクラリネットは変幻自在だ。1楽章の主題が繰り返されるところは、まるで違う楽器を吹いているようだ。音色の変化の彩りが濃い。ときにはひよこを包むように優しく、ときには戦いの雄たけびのように激しい。表情のメリハリがよくついているから飽きさせない。
カルミナ四重奏団は、明晰な合奏を聴かせる。ひとつひとつの音がきちんと聴こえるし、音程もよい。「枯れたブラームス」といったような先入観をしばし忘れる。
いい演奏である。
ザビーネ・マイヤー(クラリネット)
カルミナ四重奏団
マティアス・エンデルレ(ヴァイオリン)
スザンヌ・フランク(ヴァイオリン)
ウェンディ・チャンプニー(ヴィオラ)
ステファン・ゲルナー(チェロ)
2010年1月、ドイツ、リューベックでの録音。
馬のショー。
PR