ひろさちやの『「無関心」のすすめ』を読む。
政治も経済も破綻し、世間を見渡せば偽装事件やさまざまなごまかし、無差別殺人、数多くの犯罪。世の中は狂っている。
ただ、これはいまに始まったことではないと著者は言う。
「世の中っていうのは、狂っているのが当たり前で、まともな世の中があったためしなど、一度だってない」。
どうしたら犯罪が減らせるか、いじめがなくなるか、そんなことは政治家が考えればいい。われわれは納税の義務だけは果たすが、あとはいっさい考えない。考えるのは政治家たるおまえたちだ、と。
そしてわれわれは、このひどい世の中とどう折り合いをつければいいかというと、それは無関心になることだという。
例えば、仕事について。
明日のことは誰もわからない。だから、老後のためにしたくない仕事を一所懸命するのはばかばかしい。「仕事なんてしたくなけりゃサボればいいし、つらかったら手を抜けばいい」。
ひろさちやの本は、劇薬である。
ベルリン・フィル八重奏団員の演奏で、ブラームスの弦楽五重奏曲1番を聴く。
ブラームスはこの曲を1882年に書きあげている。その出来栄えには満足していたようで、出版者のジムロックに、こんな内容の手紙をしたためている。
「あなたは私からこれほど美しい作品を受け取ったことはなく、また最近10年間に、あなたは多分これほど美しい作品を出版したことはなかった、といえるでしょう」。
たしかに、この曲は美しい。冒頭の伸びやかな旋律から、大きな魅力を感じないわけにいかない。このメロディー、雰囲気はボロディンの有名な弦楽四重奏曲に雰囲気が似ている。冷たい風の吹く寒い夜に、暖かい家で穏やかに過ごすには最適だ。ボロディンのメロディーが不思議な懐かしさを感じるものだとすれば、こちらは心が澄み渡るような明るさに満ちている。また、ヴィオラが一本多いから中声部が厚く、どっしりしている。
2楽章のゆるやかな部分は抒情味豊かだし、3楽章のフーガの勢いは格別。
ベルリン・フィルのメンバーによる演奏は、不足なし。ヴィオラの土屋を始めとして、技量・音色ともにじゅうぶん。木目の香りがぷうんと漂う。柔らかい録音と相俟って、なんとも心地よい。
ベルリン・フィルハーモニー八重奏団員
アルフレッド・マレチェック(ヴァイオリン)
フェルディナント・メツガー(ヴァイオリン)
土屋邦雄(ヴィオラ)
ディートリヒ・ゲルハルト(ヴィオラ)
ペーター・シュタイナー(チェロ)
1970年12月、ベルリンでの録音。
パンを売るカフェ。
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