ブラームス ピアノ協奏曲第1番 ワイセンベルク(Pf) ジュリーニ指揮ロンドン交響楽団O・ヘンリー作品集(芹澤恵訳)を読む。
この作家を読むのは、中学のとき以来。新潮文庫から3冊出ていて、片っ端から手をつけていたものだ。
それから二十数年、光文社の新訳で読んでみる。やはり面白い。翻訳者の芹澤恵は、先日に読んだ『フロスト』シリーズも担当している。こうした本を訳しているということは、犯罪チックなスラングに強いヒトなのだろう。
本編を読み返してみると、懐かしい話もあれば忘れ去っていた話もある。
『赤い族長の身代金』、そうそう、こんな話だった。最後まで読んでようやく思い出した。オチが最高。ドリフの先駆けのようなギャグ。
オチがいいといえば『甦った改心』もいい。人情ものの刑事ドラマは、これをヒントにしているものが多いに違いない。
恋愛ものも気が効いている。恋の機転が裏目に出た『サボテン』、心配りが余計なお世話だった『ミス・マーサのパン』、よく知られた話だけど改めて読んだら涙が出てきた『賢者の贈り物』。
この年末にピッタリなのは『警官と賛美歌』。皮肉のスパイスがピリリと効いて、ユーモアたっぷり。この話の冒頭に、フロスト警部との接点を発見。「冬将軍」はジャック・フロストの意味とのこと。これは翻訳者の遊びだろうか!
どれも、とびきりの短編。冷える夜更けに、ポカポカした寝床でひもとくのは、ジンセイでも最高の贅沢のひとつだろう。
ワイセンベルクとジュリーニのブラームス。これも久しぶりに聴く。
冒頭から、ジュリーニがエンジン全開だ。地の底から湧き上がるようなティンパニ、ゴリゴリ軋む低弦のうなり。血管が切れるのじゃないかと心配になるくらい、テンションが高い。オケの演奏がじゅうぶんに気合いのはいったものだから、もうこれだけで満腹感がある。
おもむろにピアノが入ってきたときは、これがコンチェルトだということを忘れていたくらいである。
そんな、忘れられていたワイセンベルクのピアノも、持ち味を出している。
このピアニスト独特の、輝かしい高音を駆使した華のある音響世界が繰り広げられる。テクニシャンの誉れ高いワイセンベルクだから、技巧にまったく危なげはない。高音に焦点を絞った弾きかたなので、全体に腰は高いものの、明るくてきらびやかなことこの上ない。こういうブラームスもありだろう。
ここぞという場面で聞えるジュリーニの唸り声が一興だ。両端楽章のところどころで聞くことができ、それはもう音楽の一部になっているように感じる。グールドやチェリビダッケよりも頻繁には現れないので、ありがたみがあるというか、より劇的な唸り声であるように感じる。
こんなにいきりたっているジュリーニは珍しいし、この曲の録音史上でも稀有なことなのじゃないだろうか。
惜しむらくは録音。音が割れまくっている。むしろ迫力は増しているのかもしれないが、なんとかならなかったものか。もう少し冴えた音で聴きたいと思う。
1972年11月の録音。
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