スティーヴン・コワセヴィッチのピアノ、C・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団の演奏で、ブラームスのピアノ協奏曲1番を聴く(1979年の録音)。
このピアニストの名を最初に知ったとき、「スティーヴン・ビショップ・コワセヴィッチ」だった。けれど、いつの間にか、ミドルネームがとれて、この名前になっていた。今調べたら、ギタリストに「スティーヴン・ビショップ」という人物がいて、頻繁に間違われたので、今の名になったという。
アーティストは、名前ひとつとっても、大変だなあ。
さてこの曲、出だしはオーケストラの序奏がずいぶん長いわけだけど、この演奏、なかなか重い。水墨画のように渋くもある。ロンドン交響楽団はどんよりとした厚い雲のような響きをだすオケだけれども、オールマイティなところがあり、どんなレパートリーにもフレキシブルに対応する技術がある。この演奏では、前者が大きく顔を出している感じ。
ピアノが入ると、空気が一変する。オーケストラの重厚さと、ピアノの色合いの多彩さとの対照がはっきりしていて面白い。華やかなピアノと渋い音色のオーケストラとのせめぎ合い。
ピアノの技術は高く、とても安定している。音量もじゅうぶんで(セッション録音だから実際の具合はわからないけれども)、フォルテッシモの力強さがリアルに伝わってくる。
オーケストラは、2楽章から明瞭になってくる。しっとりとした感触に加えて、ソロ楽器が際立ってきている。ピアノは、じっくりとした半音階の進行が美しい。
3楽章は、ピアノがますます華やか。くっきりとしていて鮮やかな芳香を、おしみなく撒き散らしている感じ。大柄な薔薇の馥郁たる香りにむせ返るよう。
オーケストラは、ホルンが存在感を示して、ラスト近くの頂点は、テンポを速めて、ぐいぐい攻める。
でも、全体を通じて、ピアノの闊達さが目立つ演奏だった。
パースのビッグムーン。
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