グールド モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスジャン・ピエール・メルヴィル監督の「仁義」を観る。
仮出所の男と脱走犯、そして元刑事が高級宝石店を襲撃するまでのいきさつと顛末が静謐に描かれる。
アラン・ドロンとジャン・マリア・ヴォロンテの出会いのシーンがいい。拳銃片手に警戒するヴォロンテに、煙草とライターを左右のポケットから投げ渡すドロン。会話はないのにお互いがわかりあえる。奇妙な縁をアンリ・ドカのセピア色の映像が雄弁に語る。
スナイパー役のイヴ・モンタンは重厚。トレンチ・コートに帽子が渋い、渋すぎる。
この3人の仲間が語り合う場面は実に少ないのだけど、ほのかに暖かい友情でつながっている。
メルヴィルとドロンのコンビの、「サムライ」と並む傑作じゃないかと思う。
ブラームスの「バラード」のカタログには、ミケランジェリとグールドによる録音がある。お互いさほどレパートリーが広いソリストではないし、ミケランジェリについてはレコード録音そのものが希少だから、このシブイ音楽に対してふたりが揃って演奏しているのはちょっと意外な気がする。ブラームスのこの曲のなにかに惹かれたのだろう。
グールドの演奏は、ひとつひとつの音のコントロールを厳しく抑制し丹念に磨き上げたもの。オルガンのように長い尺度で響く低音から、冬の空の星のように色とりどりに輝く高音まで手抜かりはなく、まったく手厚い。
この音楽、ブラームスが二十歳そこそこで書いた作品だが、それを知らなければ晩年の作品だと疑わないだろう。ブラームスのキッチリ正しく渋い世界が満開である。実際最初に1,2回聴いたときは、面白さのポイントがわからなかった。それゆえに、根性だけでこの作品を弾きこなすのはなかなか難しいのじゃないかと想像する。聴くほうもけっこうツライかもしれない。
よって、音そのものだけでも勝負できる先にあげた両ピアニストが、たまたまこの音楽の録音を残してくれたことはありがたい。そうでなければ一生聴くことはなかったかも。
1982年6,7月 ニューヨーク、RCAスタジオでの録音。
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ブラームスのバラードは長らく理解不能でしたが最近になって面白くなってきました。グールドがこういったロマン派どっぷりの音楽をやるのはわりと珍しいと思いますが、はまっています。
レーゼルやカッチェン、よさそうです。渋い曲ではありますがブラームスの若書き、どちらかといえば明るめの演奏のほうがいいかもしれませんねえ。