俵万智の「愛する源氏物語」を読む。
「七九五首の和歌を、それぞれの人物の状況と才能に応じて歌いわけるという技量。その「成り代わり」の技においては、紫式部は、恐ろしいほどの力を持っていた。七九五首は、七九五種でもあるのだ」。
これは、「源氏物語」で重要な役割をもつ和歌に焦点をあて、登場人物の心の揺れ動きを読み解く解説書。
和歌というものは、近代短歌と違って、お互いに詠み交わし交流するためのものである。だから恋歌が多い。「源氏物語」でも、そうだ。
それぞれの和歌は、著者によって現代語訳されているから読みやすい。ストーリーの時系列に則って、紹介されているようだ。その和歌が作られた背景やエピソードがわかりやすく記述されているので、こちらはすっかり「源氏物語」を読んだ気になる。
現代語訳は、こんな感じ。
君し来ば手なれの駒に刈り飼はむさかり過ぎたる下葉なりとも (源典侍)
訪れがあれば御馳走いたします盛りの過ぎた私を添えて (万智訳)
このように、ユーモラスなものから、生死を賭けるようなシリアスな和歌までさまざま。
物語は光源氏を中心に、いわゆる色男が多く登場する。なかには、あられもないような口説き文句も出てくるのだが、それに著者の所感が添えられている。それがまた、女ごころを直截にあらわしていて可愛らしい。
たとえば、こんな。
「他の女と比べられて、あらためて君のよさがわかったよなんて言われても、ちっとも嬉しくない。比べるまえに、わかってよ、と言いたくなる」。
「源氏物語」をむしょうに読みたくなった。
アブラヴァネル指揮ユタ交響楽団の演奏で、チャイコフスキーの交響曲4番を聴く(1972~73年、ソルト・レイク・シティ、モルモン・タバナクルでの録音)。
アブラヴァネルによるチャイコフスキー、これでいったん聴き納め。
全体を通して、聴きごたえのある演奏であり、どの曲においても新しい発見がひとつやふたつあった。これは、素晴らしいこと。
そして、ユタ交響楽団をまともに聴くのは、この全集が初めてだったけど、アメリカのオーケストラらしい、機能性が高くて小回りのきくオケだということがわかった。
これは、折り目正しい端正な演奏。筋肉質でもある。
1楽章は弦楽器のアンサンブルが精緻。速い個所でも、乱れない。細い線のよう。もしかしたら、いくぶん、小規模の編成なのかもしれない。ホルンも見事。
2楽章も安定している。オーボエを始め、木管楽器が好調。
3楽章は、ピチカートだからか、思ったより弦楽器が厚めに聴こえる。1楽章を聴いたのと少し印象が異なる。
4楽章はスピーディ。声を荒げないで、整然と進んでいく。ラストはスマートに締めくくられる。
パースのビッグムーン。
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