パトリック・クェンティン(白須清美、訳)の「女郎蜘蛛」を読む。
これは、シンプルにして丁寧に仕上げられている上質のミステリー。本書についての詳細は、ご紹介いただいた
木曽のあばら屋さんの記事を参照いただくとして、ここではほんのサワリだけを紹介する。
殺人容疑の疑いがかかり窮地に立つ主人公が、刑事にアリバイを問われるときの会話。事件当時に映画を観ていたと云う主人公に対し、
「どんな映画です?」
「『ハッピー・エンディング』です。信じられない題名ですが」
欧米のミステリーは、シリアスな場面でもなにげなくユーモアが挿入されていることが多く、このあたりの手腕はさすがである。
メータ指揮ウイーン・フィルの演奏で、シューマンの交響曲2番を聴く。
高校生の時まで、LPは秋葉原の石丸電気で買っていた。自転車で行くことのできる距離にあったし、購入すると10%のクーポン券がもらえた。
でもなんといっても大きな魅力は、品揃えの豊富さと丁寧なサービスだった。
広い店内にびっしりと並ぶレコードを隅から隅までずずいっと眺め、目的地を定めてさんざん迷った挙句、選んだ一枚をおもむろにカウンターに持っていく。石丸の販売は、店頭に置いてあるものをわざわざ裏にある在庫から取り出して盤面のチェックをして客に渡す、という習わしであった。だから、店員が在庫から新品をもって来る間、しばらく待つことになる。すると、「テバルディのアイーダのお客様!」とか「イムヂチの四季のおきゃくさまあー!」といった具合に呼ばれるのである。よって、誰が何を買ったのかがわかるというわけ。
中学生だったあるとき、レコードを求めみんなで待っていると、店員が叫んだ。「メータのシューマン2番とマンフレッドのお客さまー!」。
渋い。
当時はシューマンの交響曲を1番と4番、ギリギリ3番を知っていたくらいで、2番は聴いたことがなかった。手をあげたのは、自分と同じくらいの年齢で、若い時の中上健次のような風貌の少年。
「こやつ、只者ではない」とひとちごちたことは言うまでもない。
メータのシューマン2番を取り出すたびに、彼のことを思い出す。
まだクラシック音楽を聴いているだろうか。
1981年、ウイーンでの録音。
冷やし中華とツイッター始めました!雨の港。
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