シューマン ピアノ独奏曲全集 デムス昨夜、テレビをつけてみると「白鳥の湖」をやっていた。マリインスキー劇場の演目だった。
バレエ音楽を、実際に踊りと一緒に見ると、テンポは常に踊り手が踊りやすいような設定になっていることがよくわかる。あたりまえのことかも知れないが、CDを聴いているとそれが全然わからない。
チャイコフスキーの音楽がすばらしいことは重々承知しているつもりだったが、踊りが加わるとこんなに素晴らしいものなのかとちょっと感動。個々の演技の見事さに加え、大勢の白鳥が一糸乱れず飛び跳ねるシーンはオドロキの一言。カメラアングルも臨場感たっぷり。これは録画しておくべきであったと後悔しつつ、挙句の果てには途中で寝てしもうた(;´^`)ゞ
さて、デムスのシューマン全集、1/4ほど聴いたけど、ムラがある。演奏もそうだけど、録音もけっこうばらつきがあるようだ。
そのなかで、交響練習曲はいい。
ピアノの音がどっしりと落ち着いているし、覇気に満ちている。他の名演といわれる演奏と比べたって遜色がないと思う。
「謝肉祭」の演奏では、例えばミケランジェリのピアノをメジャー・リーガー級だとすれば、デムスのは高校野球くらいに聴こえた。技術的な冴えがまともに反映してしまっている。
けれどもこの交響練習曲においては、硬軟とりまぜた巧みな投球術を駆使して、A・ロッドを空振り三振に打ち取るような技の冴えを見せつけられる。
強靭なタッチでもって、曲に対する思い入れをストレートに伝えている感じ。
冒頭のテーマから緊張感がみなぎる。音が渾然一体となって縦横にめぐり、シューマンの仄めかし幻想世界を渋くにじませてゆく。
この曲の順序は、ピアニストによって異なることが多いが、デムスは13曲の練習曲のあとに再度テーマを弾き、そのあとに遺作の変奏曲を並べている。
再度現れたテーマがとても効果的で、なつかしいヒトに会えたような軽い驚きがある。そしてこのあたりから、デムスのピアノはますます研ぎ澄まされてゆく。ピアノの音色の豊かな味わいが深く深く広がってゆく。
ラストの変奏曲は、低音が適度な重量感を持っていて心地よい。降り注ぐ高い音は星屑のようにひっそりと輝かしく優しい。
これは掛け値なしの名演奏だ。
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