ギレリスのピアノで、シューマンの「交響練習曲」を聴きました(1984年9月、ロカルノ、聖フランチェスコ教会におけるライヴ録音)。
シューマンのピアノ音楽は昔から好んで聴きますが、とりわけ「交響練習曲」を気に入っています。10年以上前、台湾に単身赴任していた頃、寂しい夜をほのかに彩ってくれたのはグールドの「ゴルトベルク」(新盤)とリヒテルのシューマンでした。この2枚はそれこそ毎晩のように聴いていたので、最近はめったに取り出しませんが。
さて、ギレリスが晩年に演奏したこの演奏、ライヴであることから瑕疵は少なくないものの、流れを損なうような破綻はないと言っていいでしょう。ゆったりとしたテンポでテーマが始まり、その後も心もちゆっくり目に進んでいきます。どこを叩いても揺るがないような安定感があり、ここかしこからシューマンのひんやりとした霊感が炙りだされています。透明感のあるソノリティが美しく、とりわけ高音の伸びはクッキリとしていて、まるで澄みきった秋空のよう。
ただ惜しいことに、ここには遺作が含まれていません。とくに5番はシューマンが書いた音楽のなかで最も美しいもののひとつであると思っているので、そこは残念です。
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