シューベルト「弦楽五重奏曲」 アルバン・ベルク四重奏団 シフ(Vc)大前研一(オーケン)の「日本復興計画」は、3月11日の震災による危機からの短長期的な復興への道筋。オーケンは日立にいたころに原子炉の設計に関わっていたから、福島原発の事故のあらましについてはやたらと詳しい。ドヤ顔が目に浮かぶ。すごく丁寧な説明なので新聞を読むよりは理解できたが、やっぱり難しくて、全部わかったとは言えない。
マスコミの東京電力に対する書き方は、まるで悪の帝国みたいな様相だ。東電は確かに悪いが、政府のスケープゴートも入っているのだろうと思っていたがやはり。
「心から原発をやりたいと思っている電力会社はない。過去もなかったし将来もない。なのに、行政や住民への接待漬けを伴う説得の仕事はすべて押し付けられてきた、対して原子力安全委員会や保安院は、そんな汚れ役をやるわけでもないのに、原子炉の設置許可権を盾にあれこれと電力会社をいじめてきた。中間貯蔵施設がないと燃料は燃やせませんよと泣きついても、そのうちに作ってやると言われ続けて数十年。最終的には拒否された高知県との交渉も、国がやってくれないから東電が行ったのだ」
やがて東電はつぶれるのかも知れない。となれば、福島原発の閉鎖が最後の大仕事になるだろう。こうなったら、最後まで汚れ役を完遂してほしい。応援したい。
久しぶりにアルバン・ベルク四重奏団を聴く。五重奏だから、ついでにシフもついてくる。
この四重奏団の音は、いつもこもりがちに聴こえる。EMI録音の塩梅によるのかもしれない。他の四重奏団と聴き比べると音場の拡がりが少ない。
その要因として考えられるのは、合奏が緊密なことじゃないかと思う。ときには、あたかもひとつの楽器が奏でているように。やはりアンサンブルが優れているとされる、ラサールやズスケ、あるいはスメタナには、こういう音はあまりない。音のブレンド方法に秘訣があるのだろうか。
とはいえ、ここでは5つの楽器のためにシューベルトは曲を書いているわけだから、いくら合奏が精密とはいえ、塊と化したともいえる響きは、いささか妙味に欠けると思う。もう少し、空気がふんわりと適度に入ったような膨らみがほしいところだ。
と、消極的なことを言いつつもなお、1楽章の不思議な味は捨てがたい。第2主題である。
フレーズのすみずみに抑揚が施されており、ぐいぐいと引き込まれる。じつに周到に計算されたものだ。それと同時に、ゾッとするようなシュールな妖気がある。以前「タモリ倶楽部」で紹介された、ギーゼキングの「皇帝」を思い出す。遠くで高射砲が聞こえるなかでベートーヴェンを奏でる浮世離れ。暗黒の底に落ちてゆく恐怖と、裏腹な快感。この部分だけでも聴く価値がある。
ギュンター・ピヒラー(Vn)
ゲルハルト・シュルツ(Vn)
トマス・カクシュカ(Va)
ヴァレンティン・エルベン(Vc)
ハインリッヒ・シフ(Vc)
1982年12月、スイス、セオン・プロテスタント教会での録音。
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