ヨゼフ・プロチュカのテノール、ヘルムート・ドイチュのピアノで、シューベルトの「美しい水車小屋の娘」を聴く(1985年12月、1986年3月、ドイツでの録音)。
これは、甘美な青春の喜びと哀しみのコントラストを際立たせた演奏。
このプロチュカ盤は、若者のいきりたつ感情を露わにした激情的な歌いぶりで光彩を放つ。
ときに音程が怪しくなる場面もあるけれど、そうしたことよりも音楽の勢いというか、若者の荒ぶった感情の表出を前面に押し立てた演奏になっている。
それは、恋の失敗を悟った後半の部分よりも、彼女と出会ったばかりの、まだ期待が大きい時期の前半部分に見受けられる。それが、この演奏の特徴。恋の初期状態でのドキドキ感を余すところなく歌いあげている。
多くの演奏は、若者の望みが断ち切れた「緑のリボン」以降からだんだんと感情的になってゆくが、この演奏は前半から激しい。「苛立ち」なんかは、スゴいことになっている。
ありあまる感情を抑えきれない男の率直さをあらわしてやまない前半10曲にたいし、後半はテンポを落とす。とくに穏やかな曲については、たっぷりと遅い。なので、いきり立っているシーンと落ち着いている場面との対比が明快になっている。最後、じっくり歌いあげた「小川の子守歌」は、感動的。
プロチュカの声は、透明感を湛えており、適度な厚みもあって、美声というにふさわしい。
ドイチュのピアノは、控えめながら要所をきっちり押さえていて不満なし。テンポをわずかに揺らすところなど、味わい深い。
パースのビッグムーン。
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