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ホロヴィッツの至芸

2006.06.03 - オムニバス
ピアノを弾くのが一番うまいのは誰か。

ポリーニだろうか。アルゲリッチだろうか。
もしくはミケランジェリ、キーシンか?

小生の友人で、売れない詩人の男がホロヴィッツを評したことがある。
『「君はピアノがうまいね」とみんなが褒めるクラスメイトのピアノの
うまさ。その頂点にたつのがホロヴィッツ』
あながち、間違いではないような気がする。

ホロヴィッツは、「うまい」ピアニストの延長線上のかなたにいる。
ピアノを弾くことが上手であることに、また技巧をひけらかすことに
ご満悦だったように思われる。
リヒテルやグールドの演奏のように、哲学的思索のあとを見つける
ことは難しい。
ブレンデルやアファナシェフみたいに、音符の隙間をいかに汲み上げる
か苦しんでいる気配もなさそうだ。
彼はただ、ひたすら派手に、感覚的に、そして楽しんで弾いている、
ように聴こえる。

そんな彼のいいところ取りをしたのが、このCD。

ホロヴィッツ

ホロヴィッツ!


1945年から1982年までに録音された、小品集である。
ホロヴィッツが最も得意とする曲が、この2枚に収まっている。

なかでも、ホロヴィッツが編曲した3曲が凄い。
「星条旗よ永遠なれ」と「ラコッツィ行進曲」と「カルメン変奏曲」。
一流といわれるピアニストは、絶対にやらない曲である。
ホロヴィッツならではである。
演奏は少々下品ではあるが、すごいものだ。テクニックの卓越さは
勿論だが、気負いとケレン味が激しく渦巻く情熱のかたまりだ。
聴いていて、動悸が激しくなる。
わけもわからずに踊りたくなる。

ピアノのあるクラブでこんな演奏をしたら、モテモテであろう。
うらやましいぞ、ホロヴィッツ!

他にショパン、スクリャービン、ラフマニノフ、モシュコフスキー、
スカルラッティ、リストが収録されているが、すべて、いい。

特にスクリャービンやラフマニノフの濃い情感、覇気溢れるショパンと
リスト。聴き惚れるしかない。
言うならば、全部の曲が、「特に」だ。
あとはなんといっても、スカルラッティのソナタ。
ピアノの音の美しさは、尋常ではない。
どうやればこんな音が出せるのか?
まさに、至福の音。


小生にとってこのCDは、「無人島の1枚」の最有力候補である。

…このCDは、2枚組だが。



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